造船会社の多面的な効率性の課題へのデジタル対応
競争市場、人口構成の変化、エネルギー転換に共通するものは何でしょうか。それは、船舶の設計・建造プロセスにおける効率化の必要性を推進する強力な力であり、それがこの分野のデジタル・トランスフォーメーションを加速させているという点です。
市場の地殻変動が起きています。中国、韓国、日本といった世界の造船大国間の競争は、個々の造船会社やエンジニアリング企業間の熾烈な競争のうち、最も目に見えるものの一部分に過ぎません。
造船会社は新造船の受注を競うだけでなく、新しい燃料や技術を推進力とする革新的な船舶を求める新興市場において自らの地位を確立し、その技術を開発しようとしています。このような状況において、納期を短縮し、より優れた設計を生み出し、かつ財務的に健全な事業を維持できる造船会社は、競争優位に立つことができるでしょう。
生産性の向上は、もはや「できればいいもの」 ではなく、企業の事業戦略の中核をなすものでなければなりません。これは、企業活動の将来を見据えた必須の戦いです。
労働力不足
競争が熾烈になる一方で、多くの造船会社やエンジニアリング会社、特に中小規模の会社は、労働者や技術者不足のために片手を後ろ手に縛られているような状態で戦っています。日本と韓国の急速な人口減少の中で、造船業界に新たな人材を惹きつけることはますます難しくなっています。韓国では、COVID-19規制が解除されて以来、熟練労働者の不足がここ2、3年で特に深刻になっていますが、問題の根源は10年前の大規模な市場低迷に伴う解雇にまで遡ります。
造船会社によっては2027年まで受注が満杯という新造船への需要が高まり、エネルギー転換のニーズに後押しされて技術革新が進んでいる最中に、このような採用難が発生しています。一部の造船会社では、人員不足とエンジニアリング業務増加の直接的な結果として、すでに納期遅れに直面しています。設計と建造の両チームで、既存の労働力の生産性を最大化するための対策を講じなければ、活況を呈する市場のチャンスを掴むことはできず、競合他社にシェアを奪われる可能性があります。
デジタル技術は、若い世代にとってこの業界がより魅力的なものになることと、生産性を高めるために設計プロセスを合理化することの2点において、人材確保の問題改善に役立ちます。
データはいかに効率化を促進し、より良い船舶設計をサポートするか
根本的な(そしてデジタル的な)変化はすでに進行しています。世界中のあらゆる規模の造船会社やエンジニアリング会社が、効率向上のための解決策を模索しています。その結果、造船会社によってデジタル化のレベルや規模は異なるものの、3Dモデルの使用はより広まり、設計プロセスに不可欠なものとなりつつあります。
初期のコンセプト段階から詳細設計、船級承認、そして建造に至るまで、設計プロセス全体で一貫した3Dモデルの使用を可能にすることで、部門間のサイロ化を解消し、効率的なフィードバックループの実現が可能です。また、データ入力や変換に費やす時間を削減し、エラーのリスクを抑えることもできます。最終的には、下流の生産設計で3Dモデルを再利用することで、重要な意思決定をサポートする正確な情報を提供するとともに、生産計画から調達までの時間を節約することができます。
NAPA Designerによるクイック3Dデザイン
エネルギー転換に必要な技術革新のペースの速さを考慮すると、プロセスの合理化を支援するデジタルツールは、新しい燃料や技術の複雑さと工学的な課題を解決するための、より効率的で協力的な業務フローを構築するための基盤となっています。
デジタルの時代は、設計初期段階から将来の船舶性能をモデル化できる3Dシミュレーションツールの活用に扉を開いています。仮想航海シミュレーション、代替燃料の比較、風力推進装置シミュレーション、積付条件シミュレーションなどの評価分析はすべて、船舶設計者やエンジニアがさまざまな選択肢を検討し、これまでの経験だけに頼ることができないこの時代において、最善の意思決定をしていく上で既に役立っています。
適切なツールとともに、効率的な業務フローは、手作業によるデータ入力を減らし、重複作業を削減することで、船舶設計者やエンジニアが作業量の増加と複雑さを上手く管理できるようにし、各人が本来の設計作業に集中できるようにします。これらの改善により、迅速な設計の反復と柔軟な変更管理が可能になり、生産性の向上とすべての関係者にとってより良い設計の意思決定に貢献します。つまり、これらの迅速な設計プロセスは、競争力を維持し、革新的であり続けるために不可欠なのです。
船舶設計の未来
この機会を利用してデジタルツールを活用しプロセスを改善する企業は、今日、時間を短縮し、設計に付加価値を与えるだけでなく、効率性と革新性が重要な差別化要因となる今後の市場において、競争力を維持するための適切な基盤を構築することになります。つまり、今デジタルトランスフォーメーションを取り入れることで、造船会社が進化し続ける業界において成功するための準備を整えることができるのです。
長期的には、現在進行中の情報・技術革命は、デジタル建造からデジタルツインに至るまで、造船会社が新たな価値を生み出す世界を切り開くでしょう。例えば、造船会社が製造設備の模型をデジタルで作成し、業務フローや建造工程、建造アウトプットをシミュレーションし、最適化が可能になります。
これからの道のりは、挑戦的であると同時にワクワクするものでもあります。現在進行中の技術とエネルギーの変革は、造船会社の新たなビジネスモデルを確立していき、これにより市場の地殻変動はさらに進み、新たな専門分野が形成されるとともに、よりスマートな造船を実現するための技術活用の機会が開かれることになります。
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