本船の運航状況の把握と座礁防止の対応策
座礁は最も頻繁に起こる船舶事故の一つであり、人や環境に大きな影響を与える可能性があります。最新のデジタル技術は、このような事故の防止に役立つものであり、NAPAは、運航パターンを利用して船舶の座礁リスクを検出するシステムを開発しました。この研究の重要な結論は、先日ポーランドのグダニスクで開催された最新の国際船舶復原性ワークショップ(ISSW2022)で発表されました。
現在、航海の安全性は主に乗組員の経験値を頼りにしていますが、私たちのシステムは、デジタル技術の助けを借りて乗組員の意思決定をサポートし、より安全性の高い航海を実現します。このシステムの目的は、乗組員と陸上支援スタッフの双方に、座礁のリスクを減らすための航行安全監視を系統的に自動化したツールを提供することです。これにより、ECDISの安全領域が正しく設定されていないことによるヒューマンエラーや、視界不良、または水域制限下における交通量の多さによって、気付かないうちに危険な状態に陥るリスクを最大限抑えることができます。
シンプルで効果的なアルゴリズム
約400隻の船舶のAISデータを数ヶ月にわたって分析した結果、船舶は約8割の時間、制限のない海域を航行していることがわかりました。今回のターゲットとして、残りの時間船が岸に近く水深の浅い海域にいる、あるいは交通規制のある海域で航行している船を対象に分析を行いました。
「典型的な航路」のコンセプトデザイン – 周りに障害のない航路のセンターラインを定義し、そこにAISデータで船舶が通常航行する範囲として左右両側に若干の安全域を加えることで、航路を水深データとは独立したものとして定義しました。加えて、難破船、ブイ、移動する砂州などの危険物に関する地理空間情報からも独立していており、その場所での過去の船舶航行に関するAISデータを使用することで考慮されています。
こうしたシンプルなコンセプトデザインを定義することで、大規模な船団を管理するオペレーターにとっても、リアルタイムでグローバルに運用するための実用的なソリューションとなります。また、新たな設備を導入する必要がないため、短期傭船を管理するオペレーターにも適しています。
このシステムは、乗組員に余分な作業負荷を与えず、特定の船舶サイズ、喫水、タイプに合わせてカスタマイズに調整することができます。
妥当性検証
このシステムを成功させるためには、誤報を少なく確実にリスクを特定する必要があります。私たちは過去の事故データを用いてPoCを行い、その信頼性を検証しました。その一つが、今年3月にチェサピーク湾で発生したボルチモア港からバージニア州ノーフォーク港へ向かう12,000TEUのEver Forward号の座礁事故です。座礁したのは、私たちが計算した典型的な航路のかなり外側で、その喫水の船にとっては狭い航路でした。
もう一つの例は、2020年にインドネシアのバタム島沖で起きた5,500TEUの小型コンテナ船「Tina1」の座礁事故です。同船はまず、先に座礁した船に衝突するまでの20分間、典型的な航路の外側に3つのAIS位置を登録しました。
これらのケースは、接地リスクが高まることが明らかになった後、典型的な航路の外側、制限された水路内で接地が発生するという、よくあるシナリオを示しています。
私たちのシステムは、どちらのケースでもリスクを正しく検知しました。
多角的なアプローチ
リスク検出の閾値として運用データを使用することで、エラーの特定やリスクレベルが高いケースを速やかに検知することが可能です。これは大規模な船団を運航する場合に非常に有益であり、陸上モニタリングセンターでの人力によるモニタリング設定と効果的に組み合わせることができます。
このシステムは、最新の実用的なソリューションであると同時に、将来的にはさらに高度で総合的なリスク検知のための基礎的要素になると考えています。水深データ、天気予報、停泊地情報などと組み合わせることで、より幅広いリスクシナリオに対応できるようになるでしょう。
このような取り組みには十分な価値があります。AllianzのSafety and Shipping Review 2022によると、過去10年間の全損の原因トップ3は、転覆(52%)、座礁(18%)、火災・爆発(13%)で、報告された892件の損失の80%以上を占めています。全損に至らない場合でも、人命と貨物の安全に対するリスクは高く、海難救助、離礁、難破船の撤去は複雑で大変な費用がかかる作業となります。
NAPAでは、船舶の運航者や乗組員のリスク管理を支援するシステムの研究を続けています。例えば、前回のブログでは、NAPAが旅客船の運航上の洪水リスクを迅速に評価し、リアルタイムに監視するための革新的な枠組みを開発したことを紹介しました。
私たちは30年以上にわたり、船舶設計、海運、デジタルの専門知識を結集し、船舶運航会社が日々行う重要な意思決定のサポートをしています。
論文全文は後日こちらで公開予定です。http://www.shipstab.org/index.php/conference-workshop-proceedings