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排出削減は海運業における最重要テーマ
海事ソフトウェア会社のNAPAは、船舶の排出量削減に役立つ設計、安全、運航ソリューションを開発しています。同社が直面している持続可能性に関する重要な課題のひとつは、NAPAのソリューションの使用によって削減できた排出量を測定する方法と、その調査結果をいかに効果的に伝えるかということです。 ユニバーシティカレッジロンドンと海事コンサルタント会社UMASが実施した研究によると、港湾の混雑と船舶の待機時間の長さが海運排出量の主な要因であることが浮き彫りになりました。この研究によると、船種にもよりますが、混雑と待機時間を最適化することで、航海による排出量を最大25%削減できる可能性があります。 NAPAのソリューションが解決を目指すのは、まさにこうした課題です。1989年にフィンランドで設立されたNAPAは、貨物船と旅客船の設計および運航効率のためのソフトウェアとデータサービスを提供しています。NAPAの設計、安全、船舶管理ソリューションは、航路最適化、リスク分析、排出削減、環境規制対応などの分野で顧客をサポートしています。 「排出量削減は、今日の海運業界においてサステナビリティは最も重要なテーマです。環境への配慮は業界の在り方を根本から変えており、顧客からのサステナビリティ要求も高まっています」と、NAPA Vice President Operational Excellence担当のJuhana Salminenは話します。 NAPA の顧客には造船会社、船主、運航会社、船舶設計会社、船級協会、大学、研究機関などが含まれており、ヨーロッパ、アジア、アメリカ大陸に10拠点を構え、グローバルで210名の従業員を擁しています。 「バリューチェーンの外で回避された排出量」をどう測定するか NAPA自身のサステナビリティへの取り組みはどうでしょうか?NAPAはすでに直接排出量と購入電力による排出量を算定しており、今後はサステナビリティレポートの発行も計画しています。NAPAにはサステナビリティ専門部署はありませんが、これらの取り組みを監督する専門家を任命しています。 Salminenは、責任に関する重要な課題として、「企業のバリューチェーンの外で削減された排出量」をどう測定し、報告するのか?という点を挙げています。 例えば、このような疑問に答えるため、Salminenと彼の同僚達は明確な指針と支援を必要としています:新造船のトンマイルあたりのエネルギー消費削減のうち、NAPAのソリューションに起因するものはどの程度でしょうか?NAPAの航路最適化ソリューションがなければ、船舶の航路と速度プロファイルはどうなっていたのでしょうか? 「私たちは、私たちのソリューションが環境や社会に与える影響を定量化したいと考えています。それを測定し、検証するのは難しいことです。」とSalminenは言います。 国連グローバルコンパクトが透明性と他業界との連携を強化 サステナビリティへの取り組みの一環として、NAPAは2014年に国連グローバルコンパクトに参加しました。NAPAの顧客の多くは、報告義務を負う世界的大企業であるため、自社の事業が環境に与える影響について関心を寄せています。 「国連グローバルコンパクトのアーカイブにある最新の報告書を参照すれば、容易に回答できます。」とSalminenは話します。ESG基準で概要が説明されているように、業務の透明性は、優れたガバナンスの重要な要素です。 NAPAは、中小企業にサステナビリティな経営支援を提供する国連グローバルコンパクトフィンランドの中小企業責任グループにも参加しています。Salminenによると、国連グローバルコンパクトの主な利点のひとつは、業界横断的な相互支援と学習であり、それにより企業はより幅広い視点からサステナビリティな課題に取り組むことができるようになります。 「国連グローバルコンパクトを通じて、私は他社の排出量計算ツールや報告方法について多くを学びました。まるで異種作物間の受粉のようです。」とSalminenは説明します。 排出削減目標が業界の将来の方向性を決める 今後も海事規制や要件により、業界関係者は引き続き対応に追われるでしょう。 国際海事機関(IMO)は野心的な排出削減目標を設定し、2050年までに国際海運がネットゼロを達成することを目指しています。EUの規制もIMOの基準と密接に連携しています。2024年1月以降、欧州連合(EU)の排出量取引制度(EU ETS)は大型船からの排出料を義務付け、海運業界における報告義務はますます厳しくなっています。 このため業界関係者は多忙を極めていますが、Salminenは、欧州のグリーントランジションが海事部門に新たなチャンスをもたらすと見ています。 「グリーントランジションは、新しい船舶、技術革新、テクノロジーを旧来のものに置き換えることを要求しています。グリーンファイナンスは、投資家のポートフォリオに占める環境的に持続可能な事業活動の割合を高める必要があるため、持続可能な投資のインセンティブとなります。」と結論づけました。 この記事は、NAPA, Vice President, Operational Excellence担当, Juhana Salminenへのインタビューに基づいています。本記事は、国連グローバルコンパクトフィンランドがフィンランド語で発表したものです。
Read Article3月 25, 2025
MEPC 82: 航路最適化の重要性が高まる
2024年10月、第82回IMO海洋環境保護委員会(“IMO MEPC 82”)が開催され、主に世界的な炭素課税と目標に基づく国際的な船舶燃料基準について議論されました。また、新たな大気汚染物質放出規制海域(“ECAs”)に関する具体的な決定や、CII の改善についてもある程度の評価が行われました。 経済対策が中心課題に 最終決定ではないものの、世界的な炭素課税は船舶のCO2排出量に明確な価格を設定することになります。このような排出量取引制度は、船舶運航者が自分たちの燃料消費とそれに伴う温室効果ガス排出を最小限に抑えるためのビジネス的な動機付けを促します。 このような規制環境下において、気象及び海況に関するリアルタイムのデータを使用して船舶の航路を評価し、適応させる航路最適化プラットフォームは、燃料費や排出量を大幅に削減させるだけでなく、規制遵守のコストも削減します。 より技術的な観点では、IMOの立法議案に、目標に基づく国際的な船舶燃料基準が含まれています。この規制と炭素税を組み合わせることで、船舶燃料の温室効果ガス排出度を段階的に削減する取り組みを推進できるでしょう。例えば、明確かつ実質的な再生可能な船舶燃料の基準は、e-メタノール、e-メタン、e-アンモニアなどの再生可能燃料の普及をより大きく後押しする可能性があります。 そのうえ、これらの燃料は従来の燃料よりもはるかに高いため、効率性を高めることの正当性が更に高まります。代替燃料の価格は依然として不透明ですが、業界アナリストの間では、生産コストや需要に対する初期供給不足のため、現在の燃料よりも2倍から10倍は高くなるだろうという見方が一般的です。燃料費が更に高騰した場合、航路最適化によるコスト面での競争優位性は、船舶運航者にとってますます魅力的なものとなります。 最も安価でクリーンな燃料とは、そもそも使わなくていい燃料のことです! MEPC 82で炭素税と燃料基準について具体的な決定がなされることが望ましいものの、今回の協議では、業界の環境規制と「方向性」について一定の見通しが示されました。しかし、大気汚染物質放出規制海域(“ECAs” )のような重要な課題については、具体的な決定がなされました。 新たな大気汚染物質放出規制海域の発表 ECAsとは、窒素酸化物(“NOx” )や硫黄酸化物(“SOx”)等の人類の健康や環境に悪影響を与える特定の物質の排出が規制される特別海域のことを指します。MEPC 82に従い、ノルウェー海およびカナダ北極海がECAsに指定されました。条件付きNOx排出規制は2026年3月1日より、Sox排出規制は2027年3月1 日より発効します。 これらの新しいECAsは、2025年5月1日から実効予定の地中海のECAs同様に、バルト海、北海、北米西岸及び東岸、ハワイ、カリブ海の既存のECAsに追加されます。現在のECAsは全て、Fleet IntelligenceのプラットフォームのNAPA Voyage Optimization module に含まれています。新たなECAsは、実装が完了次第、プラットフォーム上で利用可能になります。つまり、航海計画を立てる際には、関連するECAsを考慮し、ECAsを含むルートと含まないルートを比較し、総コストが最も低いルートを選択することができます。 効果を直接見たい方は、NAPA Voyage Optimizationのデモをお試しください: CII の更新計画は進行中 MEPC 82では、IMOの二酸化炭素放出実績指標(”CII IMO”)について、参加者がCIIに加え、船舶エネルギー効率管理計画書(”SEEMP”)と既存船エネルギー効率指標(”EEXI”)の「見直しを開始」したという、ごく僅かな進展がありました。IMOでは、これらは短期的な温室効果ガス対策とみなされているため、参加者は早急にこれらの対策を繰り返し、改善する必要があります。 MEPC 82では、CIIとSEEMPに関連するギャップと課題について、2段階の方法で検討することが合意されました。今年の会議では、EEXIに関してのギャップは指摘されませんでした。残りのギャップと課題は、2026年1月1日以前の第一段階で対処される可能性があります。検討が残っているものには、2027年から2030年のCII削減(Z)係数、寄港効率、DCSデータのアクセス性など、優先度の高いものがいくつか挙げられます。 未来のCII評価を予測し、様々なエネルギー効率策を評価するため、船舶のデジタルツインと履歴データを使用するNAPA CII Simulator をご検討ください。 デジタル技術で規制に対応 規制状況が変化し続けるなか、ニーズに適応し、更新されるデジタル技術へのアクセスが不可欠であり、様々な法令の影響を考慮することが重要です。また、環境パフォーマンスと規制コストの全体像を把握するためには、温室効果ガス排出規制が船舶の運航にどのような影響を与えるかをモデル化することも必要不可欠です。これはNAPAの FuelEU MaritimeとEU ETS モジュール、又はCII Simulator からの情報は、NAPA’s Fleet Intelligence プラットフォームに引き込むことができます。 規制と同様に、航路最適化のような技術も、単独で捉えるべきではありません。この技術は、効率化(クリーン)技術の導入の基盤となります。例えばNAPA Voyage Optimization は、船舶がローターセイルなどの風力補助推進技術を利用する際に極めて重要な役割を果たしています。なぜなら、船舶が好条件の風を最大限に活用できるようにすると同時に、安全性と復原性の維持にも貢献しているためです。これらの画期的な技術の組み合わせは、規制遵守と排出量削減目標の達成を大きく支えています。 . 要約すると、MEPC 82で協議された世界規模の燃料基準と炭素課税は成功が期待できます。しかしながら、参加者が最終的な法案に合意するためには、まだかなりの進展が必要です。心強いことに、参加者は2025年2月に追加の会合を行うことに合意しており、4月に開催されるMEPC 83で対策が承認される予定です。新たなECAs及びCIIの見直しは歓迎すべき進展であり、今後数年間でこれらの動きがどのように展開していくかを見守ることが重要です。 私たちは今後も規制に関する全ての議論を注意深く監視していきますが、最終的な詳細にかかわらず、IMO提案の経済的措置とより技術的な規制は、海運業界が実質ゼロの温室効果ガス排出量を目指す上で、大きな転換点となる可能性があります。この明確な「方向性」を踏まえると、持続可能性と競争力を向上させるために運航効率の改善を講じる必要性は、これまで以上に大きくなっています。 […]
Read Article11月 19, 2024